江上信行(定時制昭和42年卒) 訳 ピーター・フラハティ
私の感受性が豊かだった頃の、その時代の風景を残したいがためにもこの本を造った。若い時の生き方は各人各様だが、理想の夢と正義感を持ちながら精一杯努力し、人生の次の一歩を目指すのは変わらないだろう。この風景の模様もその一つである。
英語版は多くの人に読んでもらうために考えた。ピーター・フラハティさんに翻訳をお願いした。快く引き受けて頂き感謝の気持ちでいっぱいだ。故郷はアイルランド、25歳の時に来日したそうだ。互いに夏目漱石ファンだ。特に「草枕」のことでは意気投合している。ピーターさんは「主人公の画工が登場人物たちと交わす会話や個々のシーンの一つひとつが、絵画のように思えた」という。舞台となっている天水町小天が美しいのにも由るのだろう。それ故に結実された小説だ。近代化に浮かれて伝統や歴史を忘れるなという『草枕』のモチーフが実感できるという。人々は田舎で精いっぱい生きているともいう。『草枕』がアイルランドへの郷愁を呼び起こしているようにも思える。故郷と自然を愛するピーターさんの言葉を深く受け止めて大切にしたい。(あとがきより)
著作:『青春昭和映画館』、『背番号3』、『漱石に秋骨』等 熊日出版