松井浩章(高25回)
大逆事件で犠牲になった熊本県玉名市出身の松尾卯一太を調べているなかで、連合赤軍事件の当事者で、卯一太の子孫である雪野建作さんに出会った。取材を進めるうちに、卯一太の「謀叛の血」が雪野建作さんに脈々と流れていると感じた。そして二人の血の流れと同じように、明治の大逆事件と昭和の連合赤軍事件は、日本の左翼史をたどるように一本につながっていた。
大逆事件では時の政府による大量処刑に人々は恐れおののき沈黙し、日本軍は戦争へと突き進んだ。連合赤軍事件では、リンチ大量殺人が世の中を震撼させ、理解できないおぞましい出来事に恐れをなした若者は政治や社会問題と距離を置くようになった。そのことが、今の生きづらさや閉塞感につながっているように思える。連合赤軍事件は「負の歴史」であり、社会運動に与えた影響は大きい。しかし、日本をよくしたい、世界を平和にしたい、という若者たちの純粋な熱い思いが出発点だった。
今回の出版を通して「負の歴史」に耳目を塞いではいけないことを痛感した。大逆事件や連合赤軍事件は決して他人事ではなかった。誰でも事件の当事者に成りうる。そうならないためにも、「負の歴史」にこそ学ぶことは多い。(あとがきより)
著作:『トマトへのはるかな旅』(熊日出版)、『「凡人崇拝」の非凡人 戸川秋骨物語』(熊日出版)
編集・制作:『高瀬しぼり木綿に懸ける』(下川富士子・高瀬しぼり木綿研究会著、秋骨書林)